矯正と噛むこと

  矯正と噛むこと

お役立ちコラムCOLUMN

2017.12.08

矯正と噛むこと

矯正治療では歯ならびを治すのですが、最も重要なのは機能的に噛めることです。
しかし、歯並びの悪い患者さんにとって、噛めるという感覚を理解することは難しいと思います。
上の歯と下の歯がきちんとかみ合っていれば、機能的に噛めると思いがちです。そして多くの矯正治療を担当されていらっしゃる先生がそれをゴールと考えていらっしゃると思います。
実は矯正治療は、骨の中の限られた範囲の中で歯を移動させてゆかなければならないので、上の歯と下の歯をきちんとかませるだけでも至難の技です。
ただ、上の歯と下の歯が緊密に当たっているにもかかわらず、「噛めない」とおっしゃる患者さんがいらっしゃいます。
それを聞いた先生は咬合紙という色のつく紙をかませて、歯の当たり具合を見て、問題ないとおっしゃられるはずです。
このような患者さんを何人も診療して私が気がついたことは、顎の力の出やすい適切な歯の高さがあるということです。
簡単にえば、顎についている筋肉をゴムと考えると、ゴムがほとんど縮んだ状態しか噛み合せの高さがないと、どんなに頑張っても力は出ませんから、噛むことができません。一方ある程度の高さがあれば、ゴムが引き伸ばされるため、十分噛めると認識できる力が発揮されます。
それは顎が左右的にずれていても同じように十分力を発揮できませんから、ものを噛む力が出ないことになるわけです。
そう考えると、矯正治療を行う上では、植わっている歯の高さや、左右の顎の位置のずれについても十分考察して噛み合わせを治してあげる必要があるわけです。
残念ながら今まで一般的に行なわれてきた矯正治療ではこのようなことを考慮することがほとんどありませんでした。その結果、矯正治療を受けて本当によくなる人と、治ったように見えるのに噛めないといった問題が生じる場合があるわけです。
私が診査してきた経験では、多くの手術が必要なケースといわれた場合や、歯を抜かないと無理といわれたケースでも歯の高さを上手く移動させることで改善できることがほとんどでした。
外科手術や、抜歯はできるだけやらないほうが良いと考えます(もちろん症例によっては必要な場合があります)。また上下の骨のバランスが手術が必要なほどずれていることはめったにないと思います(唇顎口蓋裂などの先天病変は例外です)。実は手術以外の方法で治りそうな多くの患者さんが手術を勧められ、実際に手術を受けていらっしゃいます。
矯正治療が多くの場合、見た目のコンプレックスが原因のことが多く、見た目の改善のために必要以上に抜歯がされているケースが多いのですが、私は矯正治療に関しては、身体に対する関連が非常に強く、見た目を気にしすぎて結果的に身体に問題が出ることも少なくありません。
また顎の手術は実は簡単ではなく、手術が上手くいっても、噛み合わせの位置が必ずしも正しくないことも実はあるのです。それは外科の先生も、矯正の先生も噛み合せについて詳しい人が少ないからではないかと思います。

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