矯正治療が難破しないためには?

  矯正治療が難破しないためには?

お役立ちコラムCOLUMN

2018.06.12

矯正治療が難破しないためには?

私が矯正治療を勉強し、はじめて実際の治療に取り掛かったときは、治療の経過を見て、時に冷や汗が出るほど焦ったことは決して珍しいことではありませんでした。それほど矯正治療は難しく、そしておくが深い治療なのです。
こんなことは私だけかと思っていたら、実はほとんどの矯正歯科医師が、「どうやっても治せない症例に頭を抱えたことがあるという経験をいくつもお持ちだろう」、とある矯正の先生から伺って、「なるほどな!自分だけじゃなかったのか?」と思いました。実際は矯正専門医ですらお手上げになるケースもあるのです。
歯の矯正では、歯の位置をいくらでも移動させることができ、かみ合わせは大幅に変化します。自分が予想もしなかった場所に顎が移動してしまうことは実はそう珍しいことではありません。結局はさまざまな変化が重なって何とかなることも多いのですが、顎に一体何が起こっているのかとてもわかりにくいのが矯正治療でもあるのです。
顎関節と顎の動きの仕組みを熟知していれば恐れることはないのですが、仕組みがわかっていないと、オープンバイト(前歯が完全に開いてしまう嚙み合わせのこと)や受け口がひどくなってしまうと、たいていの矯正歯科医は焦ります。実際に最終的にうまくいかず私の医院に来院される患者さんもいらっしゃいます。
なぜこんななことが起こるかといえば、矯正の大学の講座では顎関節や顎の動きについて十分に教育がなされていないからだといえます。
顎の3次元的な挙動は、上下的な奥歯の高さの変化によっておきていることを理解していれば、そう難しく悩むことでありません。しかし、大学の矯正の講座でそれを教えてくれるところは非常に少ないと思います。私が顎の挙動と歯の位置との関係を完全に理解するまでには、たくさんの矯正治療やかみ合わせに関する講習会に参加し、その中から解決に使えそうな考え方を組み合わせ、自分でも理論を構築し、実際に臨床で自分の理論を当てはめてみて、やっと理解できたわけです。しかし、大学ではそのような理論は教育されていないので、その教育を受けていない先生にとっては本当に冷や汗をかいてしまうほどの問題であるに違いありません。
多くの場合、これは難しいとわかると、多くの矯正の先生は手をつけません。矯正医に相談して、治療はできませんといわれ、当医院を訪ねていらっしゃる患者さんも結構いらっしゃいます。
たとえば、噛みあわせがオープンバイトになってしまうほとんどすべての原因は、奥歯が低すぎることですが、大部分の歯科医は、奥歯を低くしてあげないと前歯が噛みあってこないと思い、奥歯を低くするために噛み合わせを削ったり、奥歯を沈めたりして調整しますが、それがますます泥沼にはまってしまう原因でもあります(この場合オープンバイトは治らないだけでなく、体調がどんどん悪くなってゆく)。
ただ、単純に奥歯を高くしてしまうと、前歯の開きが今までよりさらにひどくなるので、矯正を行う先生はそれが治るという保証もないし、そこまでの治療をする勇気もありません。
私の場合、オープンバイトの場合でも思い切って6ミリ近く奥歯を高くして前歯では1.5センチ以上開いてしまうほど、あえてオープンバイトを大きくさせます。しかし、この作用によって顎周りの筋肉が弛緩しはじめ、不思議なことに開いていた前歯がどんどん閉じてきます。
矯正治療で前歯が以前より開いてしまうことに、患者さんは一瞬唖然としますが、早い場合は1ヶ月もしないうちに前歯が完全に閉じてきて、驚かれることもしばしばです。
噛みあわせが狂った理由を考えてそれを正すように治療をすれば自然に正しいか見合わせになるのでが、単にスペースがないから抜歯し、オープンバイトになっているから奥を低くしてそれを治すいった単純な方法論だけで治療をしてしまうと、なぜ歯が並ばなかったかという原因が解決されないので、矯正治療という航海が難破してしまうわけです。

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