オーソドックスな治療と保険制度

  オーソドックスな治療と保険制度

お役立ちコラムCOLUMN

2014.09.01

オーソドックスな治療と保険制度

歯科治療で何が最も重要かといえば、「基本をきっちり押さえた治療を行う」ということが言えるでしょう。

基本をきっちり抑えた治療というのは、虫歯の治療で言えば、麻酔をかけ、ラバーダムをし、虫歯を完全に取り除き、長期間の予後が期待できる材料で充填するということに尽きます。

しかし、この虫歯を完全に取り除いたり、予後の良い材料で詰めるといった治療を行うことが何故か今の日本では難しいことのように思われます。

また、きちんと根の中を洗い、感染を取り除き、根を詰めるということも、実際は簡単なようで非常に難しいことなのです。これをきちんと行うためにはそれなりの時間と技術そして受ける側には費用が掛かるのですが、保険制度の費用では世界の標準の治療費の1/10にも満たず、これで治療がきちんとできることは難しいといわざるを得ません。もちろん中にはボランティア的にやっていらっしゃる先生もいらっしゃいますが、そんなことをやり続ければ、いずれ身体を壊してしまうでしょう。

保険制度とはある程度の妥協はせざるを得ない治療といえます。もちろん国がすべてを補償していては財政が持ちません。

私自身も、大学卒業したての頃、保険診療専門の歯科医院にアルバイトで勤めたことがあり、当時、根管治療ではすべてラーバーダムを使い、修復治療でも集中力を切らすことなく、20人以上に患者さんを診療していた時期がありました。

しかし、週一回のアルバイトなのに、体中にアレルギー様の症状が出たり、夜眠れないほど体が疲れきって翌朝起き上がれないことがしょっちゅうありました。もちろん無理の利く先生もいらっしゃると思いますが、私はこのようなことをしていては、自分の寿命も長くないだろうと感じ、自由診療への道へと方向転換しました。

自分が死んでしまえば、治すべき患者さんを治すことも出来なくなるのですから、患者さんの治療も大切ですが、自分を守ることも医師として、とても大切です。

私は自己犠牲がすべてよいわけではないと考えています。家族を養い、一人でも多くの苦しむ患者さんの病を取り除き、自分のコンディションを整える。それが本来の歯科医のあるべき姿であり、自分の体が壊れてしまってはもとも子もありません。自殺行為です。お医者さんは自己犠牲のもとに診療をやりすぎて、病気になったり、早死にしたりすることも少なくありません。もともと博愛や優しい気持ちのある、よい先生がそうなる傾向にあります。患者さんの歯を一生懸命治して、自分の歯はボロボロという先生もよく見かけます。

少なくともアメリカでは、多くの先生がこれら基本的に正しい治療をきちんとやっていると思いますし、それに対してある意味まっとうな対価をもらえる仕組みができているので、歯科医の体が日本の先生ほど体が悪くなっていないように感じます。私の場合は、歯科大学を卒業し、開業医に勤務に行った瞬間に、大学で習ったこととは異なる医院の診療形態を知って、愕然とすることもしばしばありました。今はそこまでひどくは無いと思いますが、御世辞にも理想的な治療が出来る環境ではないのが日本の保険制度です。

今の保険制度が続けば真面目な日本の歯科医でも、患者を治そうとする気持ちが奪い去られかねませんし、多くの歯科医が身体を壊しているのは傍でみて感じます。そして、手を抜かないまじめな先生だったのに、気力も体力も奪われ、持病に病まされている人も多く見かけます。

きちんと歯を治すことも歯科医の使命ですが、標準的な治療をしていては経営してゆけないレベルの給付の保険制度が国民の当然の感覚としてあれば、治療の質と経営との溝が埋まりません。今の日本ではその矛盾を埋め合わせるために、本来の治療の質とはかけ離れたタイプの自由診療が増えてしまっていることがとても残念でなりません。歯の治療は機能を治すもので、その基本的な標準治療がコストから考えて保険制度では行われにくい環境である以上、自由診療で正しく行なう医院が本来のすがたです。しかし、、それとは異なった方向に向いた歯科医院経営のための治療を流行らせているといったおかしな方法へ進んでしまっている現実があるのは、なんとも残念です。

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